2025年春から「それいけ!アンパンマン」の作者やなせたかしさんご夫妻をモデルにしたドラマが始まります。どんな話か興味をもった私は、やなせたかしさんについて色々調べはじめた。
アンパンマンがお腹をすかせている人に、自分の顔を食べさせている理由が、作者の戦争体験からくる深い意味があったこと。
(何のために生まれて 何のために生きるのか)ときどき耳にしていた「それいけ!アンパンマン」のこの歌が、作者の真剣な問いかけだったこと。
やなせたかしさんという人を、もっと知りたくなり、いくつかの著書を読んでみる事にした。その中のひとつが「チリンのすず」だった。
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表紙には、一匹のかわいい羊の子どもが載っている。アンパンマンで見られるやなせさんの可愛い絵だ。やなせさんの絵は本当に可愛らしい。90歳で描かれたという「たそがれ詩集」に載っている絵も、90歳の人が描いたとは思えないほど可愛らしい。
どんな話だろうと読んでいく。
(チリンの鈴でおもいだす やさしいまつげをほほえみを チリンの鈴でおもいだす この世のさびしさ また かなしみ)
何やら意味ありげな前書きではじまる。
子羊はもし谷底におちてもすぐわかるように金色の鈴を首につけていた。子羊はチリンという名前がついた。
羊小屋が狼のウォーに襲われたとき、チリンは母親が盾になってかばってくれたおかげで助かった。
ここからもうすでに、子どもが読む絵本にしては悲しすぎる。
たぶん、世の中のほとんどの親は危機的な状況のとき、チリンの母親と同じ行動をするだろうなあ、とそんなことを考えた。
「なぜ、どうして、ぼくたちは殺されるんだ、なんにもしなかったのに」この時にチリンは弱いものはやられるという不条理な現実を知った。
これは人間の世界でもおんなじで弱い子をいじめる、弱そうな国はやられる。戦争の残酷さへの問いにも聞こえる。国民は何にも悪い事していないのに殺されるのはなぜなのか。
その後、チリンは狼ウォーのところへ「弟子になりたい」と志願する。母親を殺した狼の顔を見るのは辛かっただろうに、一人でやってきて、下手すると食い殺されるかもしれないのに、よっぽどの決心だったのだろう。
狼のような強い動物になるために チリンは毎日けいこした。身体じゅう傷だらけになりながら、なん度も死にそこないながら。(羊のツノはかなり硬いらしいが、鍛えれば羊でも狼のように強くなるものだろうか、と話の本質から少しズレたことを考えてしまった)
そしてチリンは誰もが恐れる、チリンの母親は決して望まなかっであろう凶暴な殺し屋になった。
そして、長い年月を一緒に過ごしてきたウォーが死んでしまった。ようやく、ようやく母の仇をとったはずなのに、チリンの心は少しも晴れず悲しみでいっぱいだった。
嫌なことをされたら仕返しをしないと気が済まないと思う人もいるかも知れない。でも嫌な事をし返すと自分もその悪い人と同じになってしまう。それに仕返しをして一時的にスッキリしたとしても、それで本当に幸福が得られるのだろうか、そうではないという事をこの本は教えてくれている。
人それぞれ見方は違いますが、人を憎んではいけない、報復はいけないという事を学び、人の心の痛みに気づく事ができる人になって欲しい。そんな思いもあり、やなせさんは子どもにも是非、読んでもらいたいとこの話を絵本にしたのではないだろうか。
死んでいくウォーの言葉にも、チリンへの愛が感じられる。ウォーは、チリンのことを息子のように思っていたのでしょう。チリンもまた、いつしかウォーのことを父親のような存在に感じていたのかも知れない。母親を殺した憎いやつのはずなのに。
どんなに悪人でも心の奥には愛を持っているのではないか。本当に憎むべき人なんてこの世にはいないのかも知れない。人を憎んではいけない。そんな事にも気付かせてくれる、やなせさんの熱いメッセージが込められた絵本です。
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